高齢者の体調が悪いのに受診を嫌がる理由と説得より先にすべきこと

高齢者の体調が悪いのに受診を嫌がる理由と説得より先にすべきこと

「最近、親の体調が明らかに悪そうなのに、病院に行こうと言っても首を縦に振らない」

そんな悩みを抱える家族は少なくありません。厚生労働省の令和4年国民生活基礎調査によると、80歳以上の通院者率は人口千人あたり727.6にのぼり、大半の高齢者が何らかの傷病で通院しています。 

それでも受診を拒む高齢者がいるのは、単なるわがままではなく、本人なりの切実な理由があるためです。

この記事では、高齢者(親)が受診を嫌がる心理的背景を整理したうえで、説得を始める前に家族がまず取り組むべき3つのステップを解説します。

目次

高齢の親が受診を嫌がる4つの理由

高齢者が体調不良を感じていても病院に行きたがらない背景には、加齢に伴う心理的な変化や過去の体験が複雑に絡み合っています。受診を拒む理由は一人ひとり異なりますが、多くのケースに共通するパターンがあります。ここでは以下の代表的な4つの理由を取り上げます。

「まだ大丈夫」「行っても治らない」という思い込み

自分はまだ大丈夫

病院に行くほどではない

このような自己判断が、高齢者の受診拒否で特に多い理由です。こうした反応は、単に病気の自覚がないというだけでなく、自分自身を守ろうとする心理的な防衛反応でもあるとされています。

入院したくない

施設に入りたくない

家族の世話になりたくない

受診によってこのような根底にある不安が、現実になることを恐れている場合があります。また、加齢に伴う慢性的な痛みや倦怠感を「歳のせい」と捉え、医療で改善できるものではないと諦めてしまっているケースも見られます。

こうした思い込みが続くと、治療で改善できる症状まで放置されるリスクが高まるため注意が必要です。

待ち時間や移動の負担による通院疲れ

通院そのものが体力的な負担になっている場合も、受診拒否につながりやすいといえます。高齢者は複数の診療科を受診していることが多く、通院だけで大きな労力を必要とするからです。

病院までの移動、待合室での長い待ち時間、診察後の会計や薬の受け取りなど、通院には多くの工程があります。体力が低下した高齢者にとっては、このプロセス全体が大きな疲労の原因になり得ます。

総合病院などでは待ち時間が長引くことも多く、高齢者にとっては座っているだけでもつらいと感じる場合があるでしょう。

さらに、公共交通機関の利用が難しい地域に住んでいたり、足腰の筋力低下で外出自体がおっくうになっていたりする場合、通院に対する心理的なハードルはいっそう高まります。

上記のような身体的負担が積み重なると、「もう病院に行きたくない」という気持ちにつながることがあります。

病名の告知や入院への不安

病院で重い病気だと告げられるのではないか

こうした不安は、受診をためらう大きな理由のひとつです。

体調の変化に気づいていても、診断結果によって今の生活が大きく変わる可能性を考えると、医療機関に足を運べなくなる人は少なくありません。

受診を避ける背景には、病気である現実を直視したくない気持ちや、入院や生活制限といった将来への懸念があります。病名が明らかになることは、その後の選択や暮らし方に影響を及ぼすため、強い心理的負担となるのです。

こうした心理は認知症に限ったものではなく、がんや心疾患など重い病気が疑われる場面でも共通して見られます。

「知らないほうが今の生活を守れる」という思いが、受診回避の根底にあることを、家族や周囲の人は理解しておく必要があります。

家族への遠慮と自尊心

家族に負担をかけたくない

まだ自分はしっかりしている

このような自尊心も高齢者が、病院での診察を拒む背景に深く関係しています。本人にとって家族から受診を促されることが、自分の判断力や健康状態を否定されたように受け取られ、強い抵抗感につながる場合があるのです。

この心理は、とくに自立心の強い人ほど顕著で、「自分は問題ない」「迷惑をかけたくない」という思いが、受診へのハードルを高くしています。結果として、周囲が気付いていても本人が動き出せない状況が生まれてしまいます。

忙しい子どもに迷惑をかけたくない

このような気持ちから、体調が悪くても黙って我慢してしまう高齢者も少なくありません。通院に家族の付き添いが必要になると、仕事を休んでもらったり、予定を変更してもらったりすることを想定しているからです。

令和4年国民生活基礎調査では、高齢者世帯が全世帯の31.2%と過去最高を記録しており、高齢者だけで暮らす世帯が増加している現状があります。

こうした背景から、体調の変化を家族に言い出せず、受診が遅れるケースが増えていると考えられます。

説得を始める前に家族がすべき3ステップ

受診に消極的な高齢者に対し、結論から「病院へ行こう」と迫ってしまうと、かえって拒否感を強めてしまうことがあります。また、別の用事を装って受診させるなどの対応は、本人に不信感を抱かせ、家族との関係にひびが入る原因になりかねません。

大切なのは、説得の前にまず準備を整えることです。ここでは、受診につなげるために家族がまず取り組むべき3つのステップを以下の通り紹介します紹介します。

ステップ1:日常の体調変化を記録する

最初に取り組みたいのは、高齢者(親)の日常の様子を具体的に記録することです。体調の変化は日々少しずつ進行するため、漠然と見守っているだけでは見落としてしまう場合があります。

記録しておきたい項目
食事

量/内容の変化/食べ方など

睡眠

夜中に何度も起きていないか/日中にうとうとしていないかなど

歩き方

ふらつき/小刻み歩行など

身体的変化

体重の増減/バイタルサイン(体温・血圧・脈拍)※定期測定による数値で記録

情緒的変化

表情/会話の量/会話の内容など

こうした記録は、後にかかりつけ医に相談する際の重要な資料になります。「なんとなく調子が悪そう」という主観的な印象だけでなく、「先週から食事量が半分以下になった」「朝の血圧が普段より20mmHg高い日が3日続いた」といった客観的なデータがあれば、医師も状況を把握しやすくなるからです。

記録は手書きのメモでもスマートフォンのアプリでも構いませんが、日付と時間を必ず書き添え、できるだけ毎日継続することが大切です。

ステップ2:本人の気持ちに耳を傾ける

体調の記録と並行して取り組みたいのが、本人の気持ちをじっくり聴くことです。受診を嫌がる高齢者には、前述のとおりそれぞれに理由があります。まずはその理由を理解しなければ、どのような声かけが効果的かを判断できません。

このとき意識したいのが、「Iメッセージ」という伝え方です。「あなたは調子が悪いのだから病院に行ったほうがいい」と相手を主語にして伝えると、責められているように受け取られ、反発を招くことがあります。

Iメッセージとは

「私(I)」を主語にして、相手の行動に対する「私の気持ち・感情」を伝えるコミュニケーション技法です。
相手を責めず、自分の要望を伝えることで、人間関係を良好に保ちながら円滑にコミュニケーションを進められます。

対してIメッセージを活用し、「私が心配しているから、一度先生に診てもらえたら安心なんだけど」と、自分を主語にして気持ちを伝えると、批判的な印象が和らぎ、相手も話を受け入れやすくなります。

多くの場合、本人の中には家族を思いやる気持ちが残っています。そのため「家族が安心させたい」「家族の負担を減らせるなら」といった理由づけが、受診という行動につながるきっかけになることがあります。

ただし、一度の会話で結論を出そうとする必要はありません。「何が不安なの?」「病院で嫌な思いをしたことがある?」など、日常会話の中で少しずつ本人の思いを引き出していくことが重要です。

聴くことそのものが、本人に「自分の気持ちを大事にしてもらえている」という安心感を与えます。

ステップ3:かかりつけ医に事前に相談する

本人の気持ちや体調の変化を把握できたら、最後のステップとして、かかりつけ医に家族だけで事前相談することをおすすめします。受診をスムーズに進める工夫として、事前にかかりつけ医へ状況を共有しておくことが有効だからです。

たとえば、「本人が診察に強い抵抗感を示す可能性があるため、健康チェックという位置づけで対応してもらえないか」と前もって伝えておくことで、医師側も言葉選びや進め方に配慮しやすくなります。

直接説明するのが難しい場合には、受付宛てに簡単なメモや手紙で事情を伝えておく方法もあります。あらかじめ背景を共有しておくことで、本人の不安や警戒心を刺激せずに診察につなげやすくなることがあります。

介護経験者の参考事例介

かかりつけ医から「持病の確認のために詳しい検査を受けてみてはどうか」と勧められ、その流れで認知機能の検査にもつなげられたケースも見られます。別の目的を入口にすることで、本人の抵抗感が和らぐことがあるのです。

また、家族が直接説得するより、医師など第三者の専門家から必要性を説明してもらうほうが、本人が受け入れやすくなる場合があります。

かかりつけ医がいない場合や、家族だけでは対応に困る場合は、お住まいの地域の地域包括支援センターへの相談も検討しましょう。

地域包括支援センターとは

高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう、全国の市町村に設置されている介護・保健・福祉・医療など様々な面から包括的にサポートする「地域の総合相談窓口」です。

地域包括支援センターには社会福祉士や保健師などの専門スタッフが在籍しており、認知症に関する相談も無料で対応可能です。受診を嫌がる理由を一緒に探ったり、適切な医療機関を紹介したりといった支援を受けられます。

どうしても通院が難しい場合には、医師が自宅を訪問して診察を行う訪問診療を選択肢に入れましょう。自宅という住み慣れた環境で診療を受けられるため、本人にとっての心理的負担が軽減されます。

高齢者の気持ちに寄り添った受診への声かけと伝え方

「何度お願いしても、親が病院に行ってくれない」――そんな悩みを抱える家族は少なくありません。 先述した通り、高齢者ご本人にとって、受診の勧めは「自分が衰えた」と認めるようで、受け入れがたいものです。

ご本人のプライドや不安を尊重しながら、受診につなげていくためには、伝え方の工夫が欠かせません。ここでは、家族が無理なく取り入れられる高齢者への声かけの方法をご紹介します。

病気の指摘ではなく、安心や信頼を軸にした伝え方を知ることで、親子の関係を保ちながら受診への一歩を踏み出すきっかけが見つかるかもしれません。

「一緒に健康診断に行こう」と自然に誘う切り出し方

受診をすすめるとき、病名や症状を直接持ち出すと、高齢者ご本人の警戒心を強めてしまうことがあります。 「認知症かもしれないから病院へ行こう」と伝えると、自尊心が傷つき、かえって拒否感が増す場合があるためです。

おすすめの誘い方

そろそろ健康診断の時期だから、一緒に受けに行かない?

  • 「受診」ではなく「健康診断」や「体のメンテナンス」という形に置き換える方法が効果的!
  • 家族も一緒に受診する姿勢を見せれば、「付き添い」ではなく「一緒に行く行事」として受け止めやすい!

「最近よく眠れてる?」など日常会話の延長から体調の話題に入ると、構えずに提案を受け入れやすくなることもあるでしょう。

「私が安心したいから」と家族側の気持ちとして伝える言い方

「病院に行ったほうがいい」「検査を受けるべき」という伝え方は、ご本人にとって命令や指図に聞こえることがあります。 長年家庭を支えてきた自負がある高齢者にとって、子どもからの「行くべき」は、立場を逆転させるような響きを持つ場合があるためです。

おすすめの伝え方

先生に診てもらえたら私も安心だから、お願いできないかな?

  • 受診の理由を「あなたのため」ではなく「私のため」に置き換える伝え方がおすすめ!
  • 家族の気持ちとして伝えることで、高齢者ご本人は「家族に心配をかけている」と気づき、自発的に受診を考えるきっかけに!

伝えるときは上から説得するのではなく、隣に座って穏やかに話しかけるなど、対等な関係を保つ姿勢を意識しましょう。一度で受け入れてもらえなくても、焦らず日を改めて伝え直すことで、少しずつ気持ちが変わってくることが期待できます。

信頼できる第三者やかかりつけ医から提案してもらう頼み方

家族からの説得が難しい場合、高齢者ご本人が信頼を寄せる第三者からの働きかけが状況を変えることがあります。 かかりつけ医がいる場合は、家族で事前に相談し、普段の診察の延長として受診をすすめてもらう方法も良いでしょう。

おすすめの伝え方

定期検査の一環として調べてみましょう!

  • 日常的にお世話になっているかかりつけ医からの言葉は、時に家族からの言葉より影響があります。
  • 「医師の判断」という専門家の勧めということで、より納得しやすくなる可能性もあります!

事前に高齢者ご本人の性格や反応パターンを医師に伝えておくと、医師も伝え方に配慮することができるでしょ。また、かかりつけ医でなくても、信頼する親戚や友人から「いい先生がいるよ」とすすめてもらうことで気持ちが動くことに期待できます。

厚生労働省も認知症が疑われる方への対応として、かかりつけ医や地域包括支援センターなどの専門機関と連携して受診につなげることを推奨しています。

本人の拒否感を強めてしまう避けたい言葉と対応

よかれと思ってかけた言葉が、ご本人の自尊心を傷つけ、受診への抵抗感を強めてしまうことがあります。 避けたい言葉を事前に知っておくことで、こうした逆効果を防げます。

避けたい対応

最近、忘れっぽくなったよね

同じことを何度も言ってるよ

病院に行かないと大変なことになるよ

  • 症状を直接指摘する言葉は、「ばかにされた!」と感じやすいため、事実でも本人に伝えない方が良いです。
  • 脅しに聞こえる言い方、複数で囲い込むような対応は、追い詰められたと感じ、ますます態度を硬くします。

声かけの際は、「どうして行きたくないの?」と理由を丁寧に尋ね、不安の中身を理解することが、次の工夫へのヒントになります。

「健康診断に行こう」と誘いながら実は別の検査を受けさせるような対応は、家族への不信感につながります。

通院が難しいときに検討できる受診以外の選択肢

家族がどれだけ工夫しても、高齢者ご本人が通院を受け入れない場合や、体力の問題で外出そのものが困難な場合があります。 そのような状況でも、医療や支援から完全に切り離されるわけではありません。

厚生労働省の「社会医療診療行為別統計」によると、2023年6月時点で在宅患者訪問診療料(主治医による診療、月1回以上)の算定患者は全国で約100万人に達し、前年から約5万4,000人の増加です。このことから 在宅で医療を受ける体制は年々広がっており、通院以外にも選択肢が用意されていることがわかります。

ここでは、通院が難しいときに家族が知っておきたい選択肢と、それぞれの利用方法をご紹介します。

訪問診療や往診で自宅にいながら診察を受ける方法

通院が困難な場合にまず検討したいのが、医師が自宅を訪れて診察を行う「訪問診療」や「往診」です。

あまり利用しない方には、訪問診療も往診も同じように感じるかもしれませんが、実はこの2つのサービスには以下のような明確な違いがあります。

訪問診療と往診の違い
訪問診療

通院困難な患者に対し、あらかじめ計画を立てて医師が定期的に自宅を訪問し、診察や健康管理をするサービスです。月に1〜2回の頻度で血圧測定や採血、処方などを受けられます。

往診

一方、往診は体調が急に悪化した場合などに、依頼を受けて医師が臨時で訪問するサービスです。

訪問診療を受けている患者の約9割は75歳以上の後期高齢者で、厚生労働省の資料によると、訪問診療に対応している診療所は全体の約20%、病院は約30%に達しています。

訪問診療を始めるには、かかりつけ医への相談や、地域の在宅療養支援診療所への問い合わせが入り口になります。費用は医療保険が適用され、自己負担割合に応じた金額で利用できます。

「通院できないから医療を受けられない」と諦める前に、自宅に医師が来る制度があることを知っておきましょう。

地域包括支援センターへの相談でつながる在宅支援

地域包括支援センターは、先述の通り高齢者の暮らし全般に関する相談を受け付けている公的な窓口で、令和6年4月末時点で関連するブランチやサブセンターをあわせると全国に約7,362か所が設置されています。

利用できるのは、対象地域に住む65歳以上の高齢者やその家族ですが、 離れて暮らす家族からの電話相談にも応じているため、高齢者家族を持つ方は該当地域の地域包括支援センターを知っておくと安心です。
※お住まいの地域のセンターは、厚生労働省が運営する「介護サービス情報公表システム」から検索できます。

「親が受診を拒否している」「一人暮らしで様子が心配」といった困りごとについても、対面・電話問わず無料で相談が可能で、専門職が対応策を一緒に考えてくれます。

高齢者対応のプロ集団としての豊富な経験と知識を借り、在宅で受けられる支援を中心に高齢者ご本人が快適な生活を送れるようサポートしてもらうと良いでしょう。

認知症初期集中支援チームに在宅での対応を依頼する流れ

認知症が疑われる場合に限りますが、各市区町村に設置の「認知症初期集中支援チーム」にサポートを依頼する方法があります。

認知症初期集中支援チームとは

認知症が疑われる方やその家族のもとに専門医と医療・介護のプロが訪問し、約6ヶ月間の集中的なサポートを行う制度で、厚生労働省の施策に基づき、現在はほぼすべての市区町村に設置されています。

適切な医療・介護サービスへの接続(早期発見・早期対応)を目指し、住み慣れた地域での生活を支える活動をします。

チームの名前にある「初期」とは、病気の初期段階だけでなく「医療や介護とはじめて接点を持つ段階」を含む意味ですので、症状の段階に限らずサポート依頼が可能です。

高齢者ご本人が「病院に行かない」と医療を拒否している場合はもちろん、家族が認知症らしき症状に気づいたものの何から始めればよいか分からず、対応に困っている場合なども対応してくれます。

認知症初期集中支援チームの概要
対象者40歳以上で、認知症の疑いがある方
診断はあるが適切なサービスにつながっていない方
支援期間原則6か月程度(集中的に関わる)
メンバー構成医師、看護師、保健師、社会福祉士、作業療法士などの専門職
主な支援内容自宅訪問、状態のアセスメント、家族支援、医療受診の調整、介護サービス導入支援
費用原則無料(自治体事業のため)
支援を受けるまでの流れ
  • 家族が地域包括支援センターや市区町村の窓口に相談
  • チームの介入が必要かが検討
  • チーム員(保健師・看護師・社会福祉士など)が自宅を訪問
  • 専門医を含む会議で支援方針を決定
  • おおむね6か月を目安に集中的な支援を行い、適切なサービスへ引き継ぐ

「家族だけで抱え込まなくて良い」という仕組みになっていますので、少しでも困っていると感じている場合は、お住まいの地域包括支援センターに連絡し、チームへの橋渡しをお願いすることをおすすめします。

かかりつけ医がいない場合の見つけ方

高齢者の中には、長年大きな病気をせず、定期的に通う医療機関を持っていない方もいることでしょう。日本医師会が2022年に実施した意識調査では、全体の43.9%にかかりつけ医がいないことがわかっており、珍しいことではないのです。

かかりつけ医がいない場合、まず活用したいのが厚生労働省が運営する「医療情報ネット(ナビイ)」です。 都道府県ごとに医療機関の診療科目・診療日・対応可能な疾患などを検索できます。

お住まいの地域の医師会ホームページや市区町村の広報誌にも、地域の医療機関情報が掲載されています。 「どこに相談すればいいかわからない」という場合は、地域包括支援センターに電話してみましょう。 専門職が、地域の医療機関の情報をもとに状況に合った相談先を提案してくれます。

健康診断やインフルエンザの予防接種をきっかけに近くの診療所に足を運ぶことも、かかりつけ医を見つける方法の一つです。

様子見で見逃さないために知っておきたい受診の目安

高齢者は加齢にともなう不調を「年のせい」と捉えやすく、体調の悪化が見過ごされがちです。

内閣府「平成26年版高齢社会白書」によると、平成22年時点で65歳以上の有訴者率は人口千人あたり471.1にのぼり、約半数が何らかの自覚症状を抱えていました。訴えが日常化しているからこそ、本当に受診が必要なサインを家族が把握しておくことが重要です。

以下では、注意すべき体調変化の具体例、家族だけでは判断が難しいケースの考え方、そして迷ったときに使える相談窓口について解説します。

高齢者の虚弱で注意すべき5つの兆候

高齢者(親)に受診を促すうえで、まず知っておきたいのが「日常のなかで見落としやすい体調変化のサイン」で、国立長寿医療研究センターが挙げるフレイル(虚弱)の代表的な兆候が参考になります。

フレイル(虚弱)とは

加齢により心身の活力が低下し、健康と要介護状態の中間に位置する「虚弱」な状態のこと

フレイルの代表的な5つの兆候
  • 意図しない体重減少
  • 筋力の低下
  • 歩行速度の低下
  • 疲れやすさ
  • 身体活動量の減少

なかでも、半年間で体重の5%を超える減少がある場合は、消耗性の疾患や悪性腫瘍が隠れている可能性があるとしています。

また、フレイルは身体機能や栄養状態の低下と深く関係しており、身体機能の低下は歩行障害や転倒につながることが示されています。こうしたサインは単体では見過ごされがちですが、複数が重なった場合は早めの受診を検討する必要があります。

日頃から体重や食事量、歩き方の変化を記録しておくと、医療機関への相談時にも役立ちます。

家族だけでは判断しにくい症状と緊急性の考え方

「子どもは簡単に高熱が出る」というのは有名な話ですが、知らないが故に判断ミスをしてしまうことは誰にでもあります。特に高齢者の場合、子どもとは反対に体調の変化がわかりにくいことも多く、家族だけでは判断に困ることもあるでしょう。

見落としやすい高齢者の症状例
熱がないのに肺炎?

高齢者は体温調節機能や免疫反応が低下しているため、肺炎であっても高熱が出ない場合があり、発見が遅れやすい傾向があります。

背中の痛みなのに心臓?

心疾患では典型的な胸痛ではなく、みぞおちの不快感や背中の痛みとして現れることがあり、家族が心臓の異常と気づきにくいことがあります。

厚生労働省の「上手な医療のかかり方.jp」では以下を緊急症状として挙げており、これらが見られた場合はためらわず119番通報するよう呼びかけています。

119番通報が推奨される緊急症状
  • 突然の激しい頭痛
  • 顔半分のしびれ
  • 支えなしで立てないほどのふらつき、など

緊急性がはっきりしない場合は、普段の状態との比較が重要です。顔色や食事量、会話の様子、歩行の安定性を観察し、変化が2〜3日続くならかかりつけ医への相談を検討してください。

判断に迷うときは、次に紹介する電話相談窓口の活用も有効です。

迷ったら♯7119に電話で相談

「救急車を呼ぶほどではないが、様子を見ていてよいのか不安」という場面で頼りになるのが、総務省消防庁が推進する救急安心センター事業(♯7119)です。

現在、全国41地域で実施されており、固定電話、携帯電話問わず♯7119にダイヤルすると、医師・看護師・救急救命士が症状を聞き取り、緊急度の判断や受診可能な医療機関の案内を行ってくれます。

#7119の概要
管轄各都道府県・政令指定都市などが実施
利用対象急な病気やケガで「救急車を呼ぶか迷う」人(本人・家族など)
対応者看護師などの医療専門職(必要に応じて医師が助言)
主な対応内容症状の聞き取り、緊急性の判断、受診の必要性の助言、医療機関案内
利用時間原則24時間対応(※地域により異なる)
通話料通常の通話料金のみ
注意点すべての地域で実施しているわけではない
生命の危険がある場合は119番

♯7119が未導入の地域では、総務省消防庁の全国版救急受診アプリ「Q助」が代替手段になります。症状を選択していくと緊急度に応じた対応が表示されるため、事前のダウンロードをおすすめします。

受診を嫌がる高齢者の体調に不安を感じたら家族だけで抱え込まず、公的窓口の活用が適切な判断への第一歩です。

受診拒否が長引くときに家族自身が頼れる支援と心がけ

高齢者(親)の受診拒否が続くと、家族の側にも大きな精神的負担がかかります。

厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」によると、同居の主な介護者のうち「日常生活での悩みやストレスがある」と回答した人は68.9%にのぼり、そのストレスの原因として最も多かったのは「家族の病気や介護でした(男性73.6%、女性76.8%)。

受診を拒む高齢者(親)への対応に疲弊しながらも、一人で頑張り続けてしまう家族は少なくありません。ここでは、介護者自身のストレスとの向き合い方、離れて暮らす場合の見守りの工夫、そして相談先の情報を整理します。

介護する側が抱えやすい精神的ストレスへの向き合い方

高齢者(親)が受診を拒否し続けると、「自分の対応が悪いのでは」「万が一のことがあったら」という思いが家族の心を追い詰めます。

厚生労働省「平成22年国民生活基礎調査」では、同居の主な介護者の60.8%が悩みやストレスを抱えていると回答しており、介護に携わる家族にとってストレスが常態化しやすい状況がうかがえます。

心身の不調を自覚したときは「休むことも必要」と意識することが大切です。デイサービスやショートステイは被介護者のためだけでなく、介護者が休息を取る「レスパイトケア」としても活用できます。

レスパイトケアとは

在宅介護をしている家族が、一時的に介護から解放されて休息をとれるようにする支援サービスです。介護疲れによる共倒れや虐待を未然に防ぎ、在宅介護を長く継続することを目的としています。

負担を一人で引き受け続けるとうつ状態や燃え尽きにつながるリスクがあるため、つらいと感じたら後述の相談窓口に早めに連絡を取りましょう。

離れて暮らしていてもできる親の見守りと連携の工夫

遠方に住む高齢者(親)が受診を嫌がっている場合、そばで見守ることが難しいもどかしさは大きいものです。厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」では、主な介護者のうち別居の家族が11.8%を占めており、遠距離で高齢者(親)を支えるケースが珍しくないことがわかります。

別居や遠方居住など近くで支えられない場合でも、以下のようなサービスを活用することで間接的な見守りが可能になります。

間接的見守りサービスの例
  • 自治体の緊急通報システム
  • 民間セキュリティー会社のセンサー型見守りサービス
  • 安否確認を兼ねた配食サービス
  • 郵便局の見守りサービス
  • ヤクルト「愛の訪問活動」、など

上記に加えさらに重要なのが、「地域包括支援センター」との連携です。

同センターは離れて暮らす家族からの相談にも対応しており、親の自宅を訪問して状況を確認してくれる場合もありますので、まずは親の住所地を管轄するセンターに連絡を取ることから始めてみることをおすすめします。

高齢者の体調についての相談窓口一覧

繰り返しになりますが「何から始めればいいかわからない」、「相談先がわからない」という場合は、まず地域包括支援センターへ連絡しましょう。

地域包括支援センターを起点に専門機関へつないでもらうことで、一人では見えなかった解決策が見つかることもあります。

相談先主な相談内容対象者費用
地域包括支援センター介護サービスの利用、制度全般の相談高齢者本人・家族無料
ケアマネジャーサービス調整、家族負担の相談要介護認定を受けている人の家族無料
市区町村の高齢福祉課介護保険制度、助成、申請手続き高齢者本人・家族無料
♯7119(救急安心センター事業)救急車を呼ぶか迷う症状の相談本人・家族通話料のみ
認知症初期集中支援チーム認知症の疑い・初期対応の相談本人・家族原則無料
認知症疾患医療センター認知症の専門診断、治療、医療相談本人・家族医療保険適用
家族会・介護者の会悩み共有、情報交換介護者無料〜少額

※認知症疾患医療センターは、都道府県が指定する専門医療機関で、鑑別診断や行動・心理症状(BPSD)の対応なども相談できます。

精神的な負担が大きい場合は、悩まず「こころの健康相談統一ダイヤル」(0570-064-556)へ